新恐竜秘宝館

Vol.7 恐竜本でたどる激動の昭和史

「恐竜本でたどる激動の昭和史」
…とまあ、つい大そうなタイトルをつけてしまいましたが、前回に引き続き、いにしえの恐竜本のご紹介です。

大正も残り僅かとなった13年(1924)、おそらく本邦初のコナン・ドイル「ロストワールド」の訳本が新栄閣という出版社から出ます。題して「奇怪な足跡」。残念ながら宇月基訳、探偵冒険叢書シリーズの一冊という事位しかわかりません。そしてその翌年大正14年に、同じくロストワールドの訳本「没落の世界」が出版されます。
hihoukan_7-1.png 写真 1 表紙
これも悔しい事に未入手。表紙の画像は、サイエンスライターの金子隆一さんにお借りしたものです。翼竜の事を羽龍と訳しているのがちょっと気に入りました。この本はデジタルライブラリーに有ります。
http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/919093


戦前の「ロストワールド」訳本はもう一つ、昭和4年(1929)発行の「前世界物語」(大戸喜一郎訳・金蘭社)というのがありますが、古本屋サイトで検索したところ、なんと89250円という途方もない値が付いていたので、これはもう見なかったことにするしかありません。

昭和に入ると、恐竜が登場する本は一気に増えます。面白そうなのをいくつか選んでご紹介しましょう。

まずは「週刊朝日・昭和2年(1927) 4月24日号」です。今と違ってB4版という巨大さで、値段は12銭。この中に「科學物語 恐龍闘ふ」と題された記事があります。内容は、街に突然、ブロントザウルスと2頭のティラノザウルスが現れ、戦いを繰り広げたあげく軍隊の機関銃の前に倒れる様を、事細かに描写した前半と、翌日、この出来事を検証する科学者の講演会という形で、恐竜の事を解説する後半からなり、見開き2ページですが、サイズが大きいうえ字が細かいこともあって、なかなか読み応えがあります。
hihoukan_7-2.png 写真 2 表紙と記事の一部


同じ年の児童書「人類と生物の歴史」はデジタルライブラリーでカラーで見れますので、恐竜が描かれたから口絵など、お楽しみ下さい。http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1741575
恐竜の解説は63/122あたりから。「バケモノ世界」はあんまりな言い様ですが…。

昭和5年(1930)の児童書「地球と生物の歴史」http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1717249
この本の版画風口絵はとても気に入っています。中身は何故か、みち子とお兄さんによる物語仕立てになっています。恐竜登場は32/136。


昭和6年から9年にかけて、現在まで続いている(らしい)専門的な「岩波講座」の「地質学及び古生物学 鉱物学及び岩石学 地理学」シリーズが発行されました。「三畳紀」「ジュラ紀」「白亜紀」「カムブリア紀」「奥陶紀」(オルドビス紀)などといった具合にまとめられ、地質学から古生物学まで幅広く解説されるので、恐竜はほんの少ししかでてきません。
hihoukan_7-3.png 写真 3 「ジュラ紀」の地味すぎる表紙と恐竜関係の図版ページ


以前「新・秘宝館Vol.1」でティラノ対トリケラのイラストを紹介したことがある「續・動物の驚異」(昭和7年5月)は、動物一般についての本ですが、化石動物にも16ページほど割いています。恐竜の解説文が凄まじいので原文のまま紹介すると、
「哺乳類の祖先は爬虫類を敵としたのであるため、一員たる人類の眼にこの下等な動物は醜悪極まるものとしかうつらない。二十の目の何れもグロであるが、中にもその一の恐龍類はグロ中のグロである。」
ちなみにこの本は、畸形の写真も沢山載せていて、結構グロです。案外この時代、グロがはやっていたのかも。
hihoukan_7-4.png 写真 4 表紙とイラスト


同じ5月に「爬虫類の生態と進化」(岡田彌一郎、高桑良興 共著:養賢堂)という対極を行く立派な本も出ています。絶滅爬虫類については30ページほど事細かに触れています。
hihoukan_7-5.png 写真 5 表紙


昭和9年(1934) 6月号の「科学画報」は、インパクトがありすぎる表紙に「ネス湖怪物の正体吟味」という記事!結論として「新聞記者にデッチあげられた」「中世紀の大爬虫が生存する筈がない」「群集幻覚」と小気味よく一刀両断しています。その記事とは関係なく、「前世紀を飾る生物」という3つ折りのオフセット印刷のイラストページも有り、お得です。
hihoukan_7-6.png 写真 6 表紙
hihoukan_7-7.png 写真 7 イラストページ



昭和11年(1936) 1月号の「少年倶楽部」に掲載された「のらくろ士官学校の巻」
のらくろ達は、アフリカ奥地から見世物にするために連れてこられ逃げ出した、スケリドサウルス似の剣龍を退治する為出動する。戦車や火炎放射機、飛行機、毒ガスまで使っても歯が立たず、結局のらくろが、口につっかい棒をして石を詰めて殺す…ひどい話もあったものです。さすがに少年倶楽部の現物は無く、図は1975年に出版された文庫版「のらくろ漫画集2」からのものです。
hihoukan_7-8.png 写真 8 漫画の一部


ちなみに翌年、日中戦争が始まります。
戦時下の恐竜本を2冊。いずれも昭和18年、日本軍が南方で敗退し始めたころのものです。

「化石の研究」(安田健之介著 研究社)
こちらは児童書で、はしがきの「一生懸命勉強して、立派な皇国民になって下さい」が時勢を感じさせる程度で、特に戦意高揚色は無し。口絵にチャールズ・ナイトをパクリまくった(しかも説明には白亜紀!)わりには素朴で好感が持てるブロントザウルスがいます。内容は恐竜には殆ど触れていませんが、我が国から出た恐竜化石として、ニッポノサウルスの名前が挙げられています。
hihoukan_7-9.png 写真 9 表紙と口絵


残念ながら手元に無くて紹介できないのですが、17年刊の「樺太の古生物界」(樺太文化振興會)、19年刊の「樺太博物誌」(弘文堂書房)にも、国内産出恐竜化石としてのニッポノサウルスの記述が有る様です。


「生物発達史」(山口叡著 晃文社)
こちらはかなり勇ましい。序文に曰く「我々の生物学思想は少なくとも欧米化されていた。(中略)我々生物学徒は日本的性格にぴったりと合致した生物学的思想の建設に邁進しなければならない云々」と、いかにもと言ったところなのですが、内容はといえば至ってまとも。恐竜についてもなかなか丁寧に説明しています。ただし恐竜の名前は、禽龍・雷龍・三畸龍といった具合に全て漢字表記です。人類の進化の章でも、特に日本民族の優越に触れる訳でもないのですが、最後の最後で唐突に―我々日本人は東亜の光として全アジア民族を率い、全世界を支配すべき運命を担っていたのである―「ジーク・ジオン!」思わず叫んでしまいますね。
hihoukan_7-10.png 写真 10 表紙


さすがに終戦の年、昭和20年(1945)の恐竜本は有りませんが、21年には早くもこんな雑誌が

「世界の科学」創刊号 
特集「1億年前の地球上は大爬虫類の時代」
頼もしい限りです。もっとも内容は、ブロントザウルス、デプロドクス、ステゴサウルス(何故かこれだけサウルス)が白亜紀の恐竜とされていて???ですが。
hihoukan_7-11.png 写真 11 表紙


そして翌22年にはまたもや「ロストワールド」が登場します。
「恐龍の足音・アマゾン怪奇境探検」(高垣眸(翻案) 偕成社)
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2回にわたってお届けした、明治から太平洋戦争に至る恐竜本の歴史、いかがでしたか?最後に珍しい写真をお見せしましょう。大正14年7月に発行された「宇宙の奇観・国際写真情報三周年記念臨時増刊」という写真集で見つけた恐竜ペインティング。「文化か野蛮か…是が文明国婦人界の最新流行」とタイトルが付けられたうちの1枚です。
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田村博氏

田村 博 Hiroshi Tamura

ジャズピアニスト。1953年1月27日生まれ。
恐竜倶楽部草創期からのメンバー。恐竜グッズ収集家として知られる。東京、横浜のライブハウスを中心に活動中。
1996年に、ベースの金井英人のグループの一員としてネパールでコンサートを行った。「開運なんでも鑑定団」などテレビ番組や雑誌に度々登場。「婦人公論」2002年7/22号で糸井重里氏連載の「井戸端会議」で国立科学博物館研究室長・富田幸光氏と対談。千葉県市川市のタウン誌「月刊いちかわ」に、恐竜に関するエッセイを半年間連載。1998年の夏には群馬県と福島県の博物館の特別展にコレクションを提供。2000年夏には福井県「恐竜エキスポふくい2000」にコレクションを提供、サックス奏者、本多俊之とのデュオで、恐竜をテーマにしたコンサートを行った。

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