新恐竜秘宝館

Vol.48 ポップアップ恐竜本の世界 2019.6.4

Pop-up!Pop-up!なんて楽しげな響きでしょう。ページを開くとムクムクと立ちあがってくる恐竜たち。私などいい年をしてついワクワクしてしまいます。心のダメージも癒されるというもの。ちなみに私の最新のダメージは、前々回紹介した18000円もした「少年」が、つい先日ヤフオクで2411円で落札された事です。

今回はそんな魔法の本のお話です。まずはこちらを。

「飛び出す絵本」

「ポップアップ絵本の歴史」

一昔前まで、飛び出す恐竜本といえばポップアップ本と決まっていましたが、最近ではスマホをかざすとARの恐竜が浮かびあがりスマホで自在に操れるという、私の様なスマホレス人間にはもどかしい限りの3D恐竜本が次々と発売されています。勿論ARが何かも知らない私はさっそく検索しましたが拡張現実といわれても…。
しかしポップアップ本もレーザーカッティング技術を使い精巧な3D骨格を作り上げた「JURASSIC BOOK」(小西製作所2017) などで反撃しています。同様な手法はグリーティングカードにも使われ、千円も出さずに見事なポップアップ骨格が手に入ります。何故かティラノばかりですが。

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(画像 1)はレーザーカットティラノ3体。左から「JURASSIC BOOK(3本指なのには大人の対応を)、自分で買ったのが少々寂しいバースデイカード、そしてヤフオクでゲットした詳細不明のもしかしたら個人の作品。

たしかに、これら最新のポップアップ恐竜は、開いた時にその細かさにオオッ!となるのですが、そこは所詮、コンピューターとレーザー光線で作られた代物。ポップアップ絵本作家の匠の技とは比べようもありません。次に紹介する、恐竜ポップアップ本の最高峰、巨匠ロバート・サブダの「エンサイクロペディア太古の世界」3部作は、絵心、遊び心、古生物情報がぎっしり詰まった宝箱の様な本です。

*レーザー光線(もはや死語か)といえば、私が子供の頃は未来の殺人兵器として恐れられていたものですが…。

太古の世界3部作は、いずれもロバート・サブダ&マシュー・ラインハート作、わくはじめ訳で大日本絵画から刊行されています。各ページに子画面(時には孫画面)が開き、30体以上の大小の古生物が待ち構えています。

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(画像 2)「恐竜時代」(2005)
嬉しい事に水晶宮のイグアノドン内でのパーティーを再現。コエロフィシスはお腹に幼体の化石が納まっています。(当時は共食いの証拠とされていましたが近年はワニの化石という事に落ち着いたようです。)

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(画像 3)「SHARKS海の怪獣たち」(2006)
古代鮫は一面のみですが、メガロドンの実物大の歯も飛び出します。クロノサウルスの骨格や恐竜を襲うサルコスクス、ヘスペオルニス、メアリー・アニング、それにエラスモサウルスの首と尾を間違えて焦っているコープまでいます。載せきれなかったのですがバシロサウルスやアンプロセタス等クジラ類のページも有ります。

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(画像 4)「MEGA BEAST絶滅した獣たち」(2007)
キノグナトゥスの骨格、手のひらに乗るメガゾストロドン、クェツァルコアトルスの脇のコウモリとコンドルも絶滅種です。モア狩りの様子も飛び出てきます。

勿論、このサブダの作品は例外で、一般的にはもっと素朴なものなのですが、それでも深い味わいがあります。我家にある古いものからご紹介しましょう。

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(画像 5)「きょうりゅうがでた」(横内襄 岩崎書店1970)
今回唯一のお宝レアものです。日本で出版されるポップアップ本はその殆どが翻訳物なのですが、これは異例の純国産。大曽根俊夫雄(製作)、横内襄(画)と銘記されています。出来栄えはご覧の通り見事なもの。実は今回、あわよくば戦前のアメリカのポップアップ恐竜本を発見できないかと思いイーベイオークションで検索したところ、各局見つけられなかったのですが、60年代のアメリカの本で「printed in japan」と書いてあるのが引っ掛かりました。当時の安い労働力を日本に求めたのでしょう。現在の恐竜フィギュアの「made in china」と同じですね。技術は充分にあったわけなのに、現在に至るまで日本人作家の作品が殆ど無いのは謎です。

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(画像 6)70年代の翻訳本
「きょうりゅう」(アスカ・コーポレーション おそらく70年代)/「きょうりゅうのせかい」(バンダイ1978)
骨格組立のシーンがいい!この2冊の原書はイーベイにけっこう出回っていました。古典なのかもしれません。

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(画像 7)恐竜ルネッサンスの時代
「きょうりゅう太古の世界」(キース・モズレイ アスカ・コーポレーション1985)/「恐竜」(大日本絵画1989)/「恐竜のほねぐみ」(ボブ・クレミンズ 大日本絵画1993)
いずれも翻訳本。水平姿勢のアロサウルス骨格、集団で襲いかかるドロマエオサウルス、その隣はドロミケイオミムス、そしてやたらと格好良い疾走するデイノニクスと、時代を反映しています。

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(画像 8)その他の90年代の本
「恐竜大陸」(扶桑社1991)/「きょうりゅうとそのなかまたち」(ターナー・ホイットレイ・ガイ 大日本絵画1993)/「ダイノトピア ポップアップえほん」(ジェームズ・ガーニー フレーベル館1994)
「恐竜大陸」は富永デザイン事務所製作の国産本。「とびだすジオラマえほん」の副題通り、絵ではなく模型のジオラマ写真を使っています。造形は稚拙で古い復元ですが、イグアノドンだけは「あの頃」の姿をしています。他の2冊は翻訳物で、「ダイノトピア」は後に実写で映像化もされた、ジェームズ・ガーニーの傑作絵本を元にしたもの。良く出来ています。

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(画像 9)’86~’88年刊の洋書。私は本来洋書は(懸命にも!)集めていないのですが、90年の恐竜ブーム直前のこの時期は最新の恐竜情報を得られる和書が少なく、今は無き銀座の洋書専門店「イエナ」辺りで買い漁っていました。
ここに載せた本は翻訳本が出ていないもの。’86年、あのスミソニアンから刊行された翼竜の本は渋い色合いでとてもおしゃれ。翼竜の復元もルネッサンスしすぎで、羽毛をまとい2本足で立っている様はもはや鳥と区別がつきません。右のプテロダクティルスの絵は本体ではなく、手前の植物がとびだすユニークな仕掛けです。他の本は比較的安かったのでつい買ってしまった物。下段の立ちあがった竜脚類は当時最新のサルタサウルスです。

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(画像 10)2000年代後半の本
「ティラノサウルス・レックス」(ジョン・シビック 文渓堂2007)/「恐竜の赤ちゃん」(日経ナショナルジオグラフィック社2008)/「大恐竜ポップアップサウンドBOOK」(寺越慶司 永岡書店2009)
ティラノのみに的を絞った大判本のティラノは、立ち上がると全長50cmにもなります。「恐竜の赤ちゃん」の原書はアメリカで1991年の発売。本来ならルネッサンス真っ只中の本なので、当時のトレンド、マイアサウラの子育てやデイノニクスが描かれています。「大恐竜」は日本のオリジナルでイラストはCGを駆使した恐竜関係の作品も多い寺越慶司。ポップアップ画面は3面だけですが鳴き声のギミック付き。

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(画像 11)2010年頃の本
「恐竜博物館」(ジェン・グリーン 大日本絵画2009)/「恐竜探検」(ルイス・V・レイ 大日本絵画2011)/「サバイバルガイド恐竜」(ボブ・ニコルス 大日本絵画2012)
いずれも翻訳本。絵はCGです。「恐竜博物館」は実際に博物館を見学している様なレイアウトが楽しい。「サバイバルガイド恐竜」にはついに羽毛恐竜が登場します。しかも羽毛パキケファロサウルスまで!

大日本絵画の恐竜ポップアップ本はこの他にも多数出ていますが、ポップアップ本に限らず、しかけ絵本は他の本に比べ割高で(3000円前後するものが多い)、古本でも見つけない限り、そうおいそれとは買えません。

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(画像 12)最後に紹介するのは、我家のポップアップ本としては一番新しい、2013年KEEP刊の「とびだす!恐竜」の2冊、竜盤類(獣脚類・竜脚形類)鳥盤類(装盾類・鳥脚類・周飾頭類)です。副題からも判るとおり、なかなか突っ込んだ説明にもかかわらず、見杉宗則による絵は漫画チックで同じ姿勢をした骨格図はおどろおどろしい彩色と、制作方針が計りかねますが、1200円と安価で充分元がとれます。

ところで、前回「ざんねんな恐竜本」ベストワンに選ばれた「地球絶滅恐竜記」ですが、ざんねんなことに短命王者に終わってしまいました。新たな王者はこの本です。

「化石の話」(加藤信吉著 木の葉化石園1958年発行)
木の葉化石園

実はこの本の話をしたくてうずうずしていたのです。27ページ18cm程の小冊子で、駆け足で地球と生命の歴史を解説しているのですが、中生代ジュラ紀の動物紹介にこんな文章があります。
「~九米もある異様なステユザウルス(これは誤植でしょうが)や、剣歯象などの巨獣が…」って剣歯象でいったい???
さらに「始祖鳥と名付けたものの化石が、ドイツとイギリスの此の時代の地層から発掘されました。」とベルリン標本とロンドン標本の名の由来を素直に誤解しています。
そして白亜紀。ブロントザウルスを白亜紀の恐竜とする間違いは昔の本ではよく有る事なのでまあ良しとして、次の一節はいただけません。
「~イグアノドン、或は獰猛な格好の斑竜、八米もある禽竜等~」
和名の使用はともかく、禽竜はイグアノドンの事。そして極めつけは斑竜(メガロサウルス)のイラスト。あの水晶宮のメガロサウルスその物なのです。20世紀も半ば過ぎの本にまさかの19世紀恐竜の姿!決して恐竜研究の歴史を辿っているわけではなく大真面目です。これで「ざんねんな恐竜本大賞」は決まり。著者は地元の化石研究者の様ですが、あまりにも恐竜に対して無知過ぎます。ちなみに巻末の参考文献で挙げられている中で恐竜関係の本は「化石の世界」(早坂一郎・誠文堂新光社)ですが、発行はなんと戦前の昭和15年(1940)。児童書なので、著者が子供の頃から大切に持っていた本だとしたらそれはそれで微笑ましいのですが…。

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(画像 13)「化石の話」と仰天の斑竜イラスト。

田村博氏

田村 博 Hiroshi Tamura

ジャズピアニスト。1953年1月27日生まれ。
恐竜倶楽部草創期からのメンバー。恐竜グッズ収集家として知られる。東京、横浜のライブハウスを中心に活動中。
1996年に、ベースの金井英人のグループの一員としてネパールでコンサートを行った。「開運なんでも鑑定団」などテレビ番組や雑誌に度々登場。「婦人公論」2002年7/22号で糸井重里氏連載の「井戸端会議」で国立科学博物館研究室長・富田幸光氏と対談。千葉県市川市のタウン誌「月刊いちかわ」に、恐竜に関するエッセイを半年間連載。1998年の夏には群馬県と福島県の博物館の特別展にコレクションを提供。2000年夏には福井県「恐竜エキスポふくい2000」にコレクションを提供、サックス奏者、本多俊之とのデュオで、恐竜をテーマにしたコンサートを行った。

田村 博氏のオフィシャルサイトはこちら

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