新恐竜秘宝館

Vol.38 「フィギュアで見るイグアノドン復元史」 2017.10.11

「朝は四つ足、昼二本足、夜三本足の動物なぁ~んだ?」というなぞなぞを出して、答えられない旅人を食べたのはスフィンクスですが、「朝は四つ足、昼三本足、夕方二本で夜四本足の恐竜なぁ~んだ?」という問いに答えられなくて、スフィンクスに食べられてしまう恐竜ファンはよもやいないでしょう。

イグアノドンこそは恐竜界の復元形態更新王です。ティラノなどは羽毛表現を数に入れてもせいぜい3回どまり。かってライバルだったメガロサウルスなど全身骨格復元も殆どされないまま、下顎だけの影の薄い存在となり果てました。かろうじてスピノサウルスは、直立→2足歩行→ワニ顔→水棲と変身数で互角ですが、所詮は新参者。イグアノドンは、最初に発見された恐竜のひとつとして恐竜解説書では必ず紹介されるし、コナン・ドイル著「ロスト・ワールド」(1912)にはやられ役の家畜として群れで登場、それを読んだ物理学者にして随筆家、中谷宇吉郎の作品の表題にもなり(「イグアノドンの唄」1952年)さらにはTVマンガ「はじめ人間ギャートルズ」のテーマ曲「やつらの足音のバラード」の歌詞にブロントザウルスと共に登場する程のメジャーな恐竜なのです。なのに昨今の模型人気はいまいち。親指のスパイク以外は何の特徴もない地味な外観のせいでしょう。特に現在の四つ足になってからはご自慢の親指スパイクが目立たず、遠目には誰だか判らない有様に。かっては恐竜フィギュアシリーズの常連でしたが、近年めっきり出番が少なく、例えば日本ではその地位を同系の国産フクイサウルスに奪われています。そんな落ち目なイグアノドンと数少ないと思われるそのファンのために、今回は形態別イグアノドンフィギュア特集です。同じく形態変化を繰り返す大型脊椎動物、シンゴジラに習って第1~第4形態と呼ぶ事にします。

*実は今年開館30周年を迎えた群馬県の「神流町恐竜センター」で10月21日から開かれる企画展に、我家の恐竜模型が参加する事になりました。そのテーマが恐竜復元の変遷と言う事で、海洋堂初期(80年代)の懐かしいスタイルのガレージキット(巨大な荒木ティラノ等)をはじめとして、様々なスタイルの模型が出張する事になり、そんなこんなでいろいろ見つくろっていたところ、イグアノドンが意外とバラエティに富んでいて面白いのに気付き集めてみた次第。企画展に連携したと言うか便乗した今回の特集でした。タイトルも多少拝借してしまいました。

企画展「フィギュアで見る変化する恐竜たちの姿」

第1形態
言うまでもなく、マンテルの骨格復元図を元にした、今でも水晶宮公園に鎮座する(秘宝館Vol.39)、あの角をはやしたやつです。市販された模型は少なく、知っている限り、フェバリットのオールディーズシリーズの物と、レッズから発売された小さな「レトロクラシック恐龍ボトルキャップ」シリーズのシークレットアイテム(いずれも荒木一成さん原型)、それと怪獣などのミニソフビモデルを発売している「ぶたのはな」というメーカーの「ミニ恐竜シリーズ」…。「えっ、四つ足じゃないじゃん!」と言うなかれ、このメーカーの古生物はプロトケラトプスもエドモントニアも、そして事もあろうにディキノドン類のプラケリアス(!)もみんな立っているのです(唯一の例外はエリオプス)。ご丁寧な事に足の裏に「イグアノドン誤」と銘記されているのがマニアック!(①)
これだけではあまりにも寂しいので、こちらもどうぞ。新秘宝館Vol.35始祖鳥の回で紹介した、19世紀の古生物石版画シリーズの一枚です。相方の旧メガロサウルスの模型は、残念な事に市販されていません。(②)

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第2形態
思えばこの時期がイグアノドンの絶頂期でしょう。足と尾で3点直立し胸を張って威風堂々とした佇まいは威厳たっぷりで、ゴジラのモデル説も納得がいきます。確かに手や立ち姿などゴジラそっくり。役者さんが入りやすい体形と言ったら見も蓋も有りませんが。私の一番のお気に入りは1950年のブリアンのカラー版イラストです。月明り(?)の下、悠然と構えた姿は神々しさすら感じてしまいます。そして何より強そうです。事実、当時はティラノサウルスの喉元にアブドーラ・ザ・ブッチャーの凶器攻撃さながらの親指突きを入れたりしていました。

*ティラノVSイグアノドンは時代が若干(ほんの5千万年程)違いますが、結構対決していました。TVの「恐竜探検隊ボーンフリー」にもそのシーンがありましたし、私は行った事が無いのですが、伊豆の小室山恐竜広場ではいまだに戦っているようです。
昔は白亜紀の大型肉食竜といえばティラノサウルスしかいなかったのです。同じ白亜紀の恐竜同士としてイグアノドンと共に図鑑の1ページに収まってしまうおおらかな時代。「マーストリヒティアン」など、間違ってもシロウトが口にする事はありませんでした。

第2形態イグアノドンは、他にもキリンのごとく長い舌を絡ませて葉を食べるという小技も披露。ベルニサールでの集団飛降り自殺等、話題にも事欠きませんでした。そして最初に尾を上げて全力疾走した大型恐竜でもあります(なんと1913年!ハイルマンのイラスト)。
もちろん模型も沢山あります。

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(③)海洋堂のガレージキット。(秘宝館Vol.62も合わせてご覧ください)

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(④)1972年製バンダイのプラモデル。希少な物ですが(秘宝館Vol.59新秘宝館Vol.8 )この機会に思い切って作ってしまいました。とは言っても作ったのは比較的出回っているアメリカ仕様の方で、オリジナル国内版はしっかり温存です。本当に久しぶりにプラモを作りました。Mrセメント(プラモ用接着剤)の蓋を開けたのはおそらく10数年ぶり。懐かしい香りとともにプラモデラー魂が蘇ったひとときでした。

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(⑤)70~80年代のオモチャ。左から当時の定番香港製のゴム人形/クローバー/大協?/マルシン/不明/そして謎のケンコーチョコレートの食玩。(秘宝館Vol.3637もご覧ください)

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(⑥)海外の物。左からMARX(50年代)/STARLUX/KLEINWELKA/不明・90年代に買った物)/SHREDDIES (新秘宝館Vol.8をご覧ください)

第3形態
70年代の恐竜ルネサンス以降、2足歩行恐竜は尾をひきずらなくなりました。もちろんイグアノドンも。しかし模型的にはベース無しで2本の足だけで立たせるのはなかなか難しく、やむなく尻尾で支えている物もあります。第2形態との見分け方は頬袋の有無です。80年代の植物食恐竜は、猫も杓子も、竜脚類さえ頬袋がありました。しかし、この頬袋によってイグアノドンの顔から覇気が失われ温厚で平凡な植物食恐竜に成り下がってしまったと残念がるのは私だけか…。

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(⑦)海洋堂のガレージキット 右端はむしろ第2形態?

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(⑧)前列左からU.K.R.D(90年代)/大英自然史博物館(1980)/カーネギーサファリ(1990)/多分ディズニーのアニマルキングダム関係の物。後の大きいのはサンダービーストシリーズ、90年代前半の物です。

第4形態
1985年、科博で開催された「特別展・イグアノドン」で、4足歩行のイグアノドンフィギュアが発売されています。第2形態の物と2種類並べて販売されました(⑨)。この時の展示では、イグアノドンでも比較的小型のマンテリは2足歩行、より大型のベルニサルテンシスは4足歩行で復元されていました。

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(⑩)前列左の二つは地元イギリスの物。大英自然史の「Dinosaur collection」シリーズの物と、BBCのTV版「Walking with Dinosaur」のフィギュア。
その隣はドイツの「ブリーランド」製。後にいるのは新恐竜秘宝館Vol.21一品物特集に登場したsansyo88さんの作品で、やはりヤフオクでゲットした物です。他にもフェバリットのデスクトップモデルシリーズ(絶版)やサファリのリニューアル版、食玩などいろいろあるのですが、どれも似たようなプロポーションなのは、科学的正確さが求められる昨今のフィギュアではいたし方無い事でしょう。冒頭に書いたように、スパイクを誇示できず、顔つきも特徴無しで、エドモントサウルスよりもさらに地味な恐竜になっています。

そんな第4形態イグアノドンが唯一花を咲かせたのが、2000年に公開の主演映画、ディズニーの「ダイナソー」です。恐竜のおしゃべりとディズニー顔を我慢すれば、CG恐竜はとても良く出来ていて楽しめました。グッズもイヤという程販売され、かなり買い揃えたのですが、ディズニー顔のせいか棚に飾っていなくて、今回グッズが山積みされた押し入れの中からいくつか発掘する羽目になりました。(⑪)大きなものは後方のカルノタウルスとリード線でつながっていて何かやりとりをする様なのですが、操作の仕方がわかりません。残念。改めて見ると、フィギュアの出来はジュラシックワールドよりも良いです。

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(⑫)イグアノドンの骨格フィギュアは情けないほどありません(頭骨だけでしたらフェバリットから出ていましたが)。左は蛍光キットですが、現在発掘キットとして出回っているのと同じ物、右はおそらく80年代、くじの景品だった物です。立派にイグアノドンに見えますが残念な事に骨盤が省略されているので、若い頃に恥骨坐骨をプラ板で作って当時はやりの走行姿勢にしたのが中央の物です。後は苦し紛れの「ほねほねザウルス」と、少し前仲間内で一瞬盛り上がった、100円ショップ・ダイソーのどう見てもヴェロキラプトルに見えてしまう木製骨格。マニアはこの手の物にはついつい食いついてしまうのです。まさか秘宝館で披露する事になるとは思ってもいませんでしたが。他にフルタの食玩「チョコエッグ」シリーズの物も有るはずなのですが、不覚にも探し出せませんでした。

>「恐竜おもちゃの博物館」でもイグアノドンフィギュアの展示をしています。「ダイナソー」グッズや食玩が充実しています。

イグアノドンのプラモを作った勢いで、組んだまま2年程放置していた、松村しのぶさん原型の超限定レジンキット「ブリアン・ティラノ」を完成させました。(⑬)
どこをとってもティラノサウルスでは無いのですが(頭小さいし指は3本だし…)、文句なしに格好いいです!

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田村博氏

田村 博 Hiroshi Tamura

ジャズピアニスト。1953年1月27日生まれ。
恐竜倶楽部草創期からのメンバー。恐竜グッズ収集家として知られる。東京、横浜のライブハウスを中心に活動中。
1996年に、ベースの金井英人のグループの一員としてネパールでコンサートを行った。「開運なんでも鑑定団」などテレビ番組や雑誌に度々登場。「婦人公論」2002年7/22号で糸井重里氏連載の「井戸端会議」で国立科学博物館研究室長・富田幸光氏と対談。千葉県市川市のタウン誌「月刊いちかわ」に、恐竜に関するエッセイを半年間連載。1998年の夏には群馬県と福島県の博物館の特別展にコレクションを提供。2000年夏には福井県「恐竜エキスポふくい2000」にコレクションを提供、サックス奏者、本多俊之とのデュオで、恐竜をテーマにしたコンサートを行った。

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