新恐竜秘宝館

Vol.32 「20世紀恐竜漫画・前編」

「月刊コミックビーム」に連載中の「地底旅行」がようやく首長竜VS魚竜の名シーンにまでたどりつきました。セリフまで原作にこだわるのは良いのですが「以前にハンブルグの博物館で見たことがある」恐竜(原作では爬虫類)骨格の絵が19世紀の半ばにはまだ発見されていないティラノサウルスなのが残念。しかも水平姿勢のうえ骨盤がでたらめです。待望の海棲爬虫類の姿もアレレだし…。風景が細かく描き込まれているだけに悔やまれます。

*「ハンブルグの博物館」を調べてみましたが判らず。もし小説どおり実際に19世紀半ばに10メートルの全身骨格が展示されていたとしたら、おそらく海棲爬虫類でしょう。

だからというわけではありませんが、今回と次回は我家の恐竜漫画コレクション、それも(手塚治虫作品にちなんで?)“前世紀”のものをご紹介。とはいえ恐竜漫画の世界は底なしで、タイトルに「恐竜」がついたり表紙に恐竜が描かれているものはともかく、エピソード中に恐竜が出ていても探す術は無く、そんな本を手に入れるには、知人やネット、資料本(例えば昭和中頃までの希少な漫画を事細かに紹介した「漫画大博物館」松本零士/日高敏著という有難い本)などからの情報、そして古本屋の店頭での偶然の巡り会いに頼るしかありません。恐竜漫画コンプリートなど夢のまた夢。ここで紹介する本は星の数ほどある恐竜漫画のほんの一部だと思って下さい。(そう言えば「うる星やつら」や「アラレちゃん」にも恐竜エピソードがあった様な記憶が…)
*今回はいわゆる「学習漫画」ははずしました。収拾がつかなくなりそうなので。

まずは古い所で、有名な「のらくろ」(田河水泡)から。見世物小屋から逃げ出した剣龍を退治するお話なのですが2バージョンあります。1936年1月号の「少年倶楽部」に掲載されたものは「のらくろ士官学校の巻」と題され、士官学校生ののらくろが裏山に出現した剣龍をやっつけます。モノクロで背景はとてもシンプル。1975年発行の文庫本「のらくろ漫画集」等に収録されています(新秘宝館Vol.7)。同年2月に単行本として出版され、その時は「のらくろ小隊長」に昇進していて、エピソードも「休暇・非常呼集・怪獣退治」の3章に拡大され全ページカラー、背景も丁寧に描かれているという豪華版の別物になっています。こちらは1969年に当時の広告までも収めた完全復刻版が出ています。
のらくろと並ぶ戦前の人気漫画(と言うよりは絵物語ですが)冒険ダン吉にも恐竜が出てくる話があります。「冒険ダン吉大遠征」という1935年刊の単行本中の「外人征伐の巻」です。嵐で船が座礁し上陸した南洋の島で、竜脚類と遭遇します。こちらも1970年に完全復刻されました。

[のらくろとダン吉](画像1)
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引用元
「のらくろ漫画集2」 田川水泡 1975 講談社 175p ● 「のらくろ小隊長」 田川水泡 1069 講談社 130p ● 「冒険ダン吉大遠征」 島田啓三 1970 講談社 196p


「怪奇島征伐」(サカキ敬)は出版社も出版年月日も記載されていない付録の様な謎の小冊子なのですが、同じ作者が映画「キング・コング」の翻案物として書いた「怪奇島」という作品が1934年1月に藤谷崇文館から出版されていて、どちらも巨猿ゴリラコングが登場するので、何か関係がありそうです。
「燃える恐龍島」(山田ツネオ 漫画出版社)これも付録か、あるいは貸本かもしれません。60ページ程で発行年月日は不明ですが1940年代後半から50年代前半位ではないでしょうか。原子力ロケット機も登場します。
1948年3月発行の劇画調の絵物語「恐龍境探検」(芳谷まさる・文園社)は、中国奥地の伝説の地、崑崙にあるロストワールドを探検する話です。絵が迫力満点です。
同年、田川紀久雄作「ジミーの大冒険」が登場。http://blog.goo.ne.jp/mangaziro/e/2dd613e3f09bc3393a3a6cba7190224a
この作品は1983年に「恐竜時代」と改題され復刻されています。

[戦前から戦後にかけての恐竜漫画] (画像2)
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引用元
「怪奇島征伐」 サカキ敬 不明 不明 ページ表記無し ● 「燃える恐龍島」 山田ツネオ 漫画出版社 不明 24p ● 「恐龍境探検」 芳谷まさる 文園社 1948 1/5/68/77/81/82/92/101p ● 「恐竜時代」 田川紀久雄 名著刊行会 1983


そして同じ1948年の12月に、手塚治虫の「ロストワールド前世紀」が発売されます。
https://ja.wikipedia.org/wiki/ロストワールド_(漫画)
オリジナルはとても手に入りませんがこの様な物です。
http://www.eshita-labo.org/culture/2007/01/sf.html
恐竜は宇宙編に登場します。復刻版は数多く現在でも手軽に読む事が出来ます。

その後、手塚治虫は数多くの作品に恐竜を登場させました。
「化石人間」(1952―1982年刊の復刻版を所蔵)/「火の鳥・未来編」(一度滅び再出発した地球の生命の進化は恐竜までたどりつきますが、その後の意外な支配者が…)/「ブラック・ジャック7巻」(化石捜ししか取り柄が無い少年が発見したゴルゴサウルス骨格の話「デベソの達」を収録)/「ロップくん弟2巻」(1980)ロップくんが遊園地でロボット恐竜を作る話の他に、1965年頃に書かれたアフリカが舞台の「ボンゴ」という作品も収録されていて、驚くべき事に魚が好物のスピノサウルスが登場します。50年前に予言するとは!手塚治虫恐るべしです。/「漫画生物学」(1984年にまとめられた学習漫画風のもの)
今の所我家にあるのはこれだけですが、1998年講談社刊の資料本「手塚治虫博物館」は作品に登場する様々な生物(勿論恐竜も)の絵と解説、その出展元を記したもので、とても参考になります。その中からまだ買い残している恐竜物を挙げると:「鉄腕アトム―テストパイロットの巻」(ティラノサウルス)/「マグマ大使」(ステゴサウルス)/「ブルンガ一世」(トリケラトプス)/「ノーマン」(ブロントサウルス)/「地底国の怪人」(ブラキオサウルス)/「三つ目がとおる」(プレシオサウルス)/「オズマ隊長」(イクチオサウルス)/「0マン」(マンモス)/「ジャングル大帝」(マンモス)等々…コレクションの道程は長いです。

[手塚治虫の恐竜漫画](画像3)
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引用元
手塚治虫:「化石人間」 手塚治虫ファンクラブ京都資料室 1982 ● 「火の鳥」 虫プロ 1968 ● 「ブラック・ジャック7」 秋田書店 1976 ● 「ロストワールド前世紀」 桃源社 1976 ● 「ロップくん2] 講談社 1980 ● 「ロストワールド」 講談社 1982 ● 「漫画生物学」 講談社 1984 ● 「ロストワールド」 角川書店 1994 ● 「ロストワールド 私家版2」 講談社 1995


*手塚治虫漫画全集の「新宝島」(恐竜は出てこない)の巻末に「ぼくのデビュー日記」と言う資料が収録されていて、その中の昭和22年5月16日の記述に「新聞によれば、奥秩父の山中の洞穴より、有史以前の旧石器原人の化石、および、横浜からステゴザウルスと思われる巨竜の骨格が発見されたとか。(原文のまま)」とあります。いったい何新聞なのだろう…謎です。東京スポーツはまだ創刊されていないし…。これは恐竜倶楽部仲間からの情報、よくぞ見つけたものです!

ここで、年代は前後しますが、その他の昭和の巨匠たちの恐竜作品を紹介しておきましょう。

藤子・F・不二夫
現在大活躍の科学ライター、土屋健さんは、原点は子供の頃に読んだ「のび太の恐竜」と書いていますが(ちなみに私は「海の王子」の連載を読んでいます…)、ドラえもんの恐竜エピソードは「のび太の恐竜」(長編・短編)「のび太と竜の騎士」以外にも沢山あって、それらは「ドラえもん[恐竜編]」(1994コロコロ文庫)にまとめられています。「T-P(タイムパトロール)ぼん」(1979)にも「バカンスは恐竜に乗って」という恐竜時代に行くエピソードと「消されてたまるか」という1ページだけフタバスズキリュウが出てくる話があります。藤子恐竜作品はまだまだ沢山あると思いますが、私の知識はここまで。

石森(石ノ森)章太郎
1966年から少年マガジンに連載された「サイボーグ009―地下帝国ヨミ編」にはペルシダーのマハールを思わせる進化した翼竜(?)と超音波を出すプテラノドン、首長竜、エオヒップス、そして1コマだけですが始祖鳥も登場します。新秘宝館Vol.28 [地底世界特集]で取り上げるべきでしたが不覚にも忘れていました。69年朝日ソノラマ刊の大型本「ジュン」は実験的な作品ですが「恐竜」と題された章は気合が入った恐竜イラストで埋め尽くされています。1972年に単行本になりアニメ化もされた「原始少年リュウ」は冒頭で「この[物語]には[時間]が無いといっておこう」と宣言して、ティラノやモササウルスやディアトリマやマンモスや原始人を確信犯的に共演させます。1993年の「ディノニクス―恐竜のいる風景」は作者の恐竜作品の集大成で、「ジュン」や「原始少年リュウ」の短縮版など短編9編が収められています。タイトルの「ディノニクス」はサイボーグ009の1エピソードなのですが、面白いのは、少年ジャンプに初掲載されたのが1976年6月とあり、あのデズモンド著「大恐竜時代」が世に出た直後です。という事は、石ノ森さんも、バッカーの「疾走するデイノニクス」のイラストに衝撃を受けたクチだったのでしょう。(新・秘宝館Vol.11)

松本零士は78年にメーテルにも負けない原始人美女が登場する「ダイナソア・ゾーン(恐龍帯)」を書いていますが(81年版は表紙違いですが買うしかありません!)、「銀河鉄道999」にも恐竜が支配する星を舞台にした「冷血帝国」という話があります。「恐竜荘物語」という作品には残念ながら恐竜は出てきません。

永井豪と恐竜というとゲッターロボの恐竜帝国などを連想する方も多いと思いますが、恐竜人が支配する世界で、恐竜武士とその弟子の人間の少年が仇討の旅をする“時代劇”「ドラグ恐竜剣」(1995)なる作品もあります。そして貴重なのが「60億の恐竜たち」(1995)。これは市販の本では無く石川県環境部がリサイクル促進のために発行したオールカラーのパンフレット。以前まんだらけで8000円で売りに出ていましたが買わずじまいで大後悔といういつものパターンを繰り返してしまいました。「永井豪作品全書」(新紀元社2002)に白黒版で収録されています。

白戸三平の、あの「カムイ伝」にまさかの獣脚類骨格が登場。第二部の「外川浦」というエピソードで、本筋とは関係なくカムイとは絡まないのですが、土木工事で出土した獣脚類の化石が、居合わせて落石で気を失った陽明学者熊沢蕃山(実在の人物)の夢に現れ、人類のうぬぼれを諭すという驚天動地の逸話が挿入されます。ちなみに化石は自らを「恐竜じゃ!」と自己紹介してしまいますが、もちろんそこはツッコミ所ではありません。我家にあるのは94年刊の小学館ゴールデン・コミックスですが発出は不明です。

モリ・ミノルって誰???実は後に日本SF御三家の1人に数えられる小松左京その人です。漫画家を志した時代があったのです。https://ja.wikipedia.org/wiki/小松左京
1950年に不二書房から刊行された「ぼくらの地球」は生物の歴史を漫画で描いたもので当然恐竜も出てくるのですが、残念な事に原本は発見されず原稿もかなり失われているそうです。現存する部分は「幻の小松左京/モリ・ミノル漫画全集」(2002小学館)で見る事が出来ますが、首長竜、翼竜、始祖鳥などはそこそこ残っているものの、恐竜登場シーンは大幅に欠落していてわずか3ページほどしか残っていません。

[巨匠たちの恐竜漫画](画像4)
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引用元
藤子・F・不二夫:「ドラえもん16」 小学館 1979 ● 「T・Pぼん1」 潮出出版 1979 ● 「T・Pぼん2」 潮出出版 1979 ● 「のび太の恐竜」 小学館 1983 ● 「のび太と竜の騎士」 小学館 1988 ● 「ドラえもん[恐竜編]」 小学館 1994 ● 「のび太の恐竜」 小学館 2014
石森(石ノ森)章太郎:「サイボーグ009_5」 秋田書店 1967 ● 「サイボーグ009_6」 秋田書店 1968 ● 「原始少年リュウ_1_2_3」 秋田書店 1972/1972/1973 ● 「ジュン」 朝日ソノラマ 1975 ● 「ディノニクス」 朝日ソノラマ 1993
松本零士:「ダイナソア・ゾーン」 日本文芸社 1978 ● 「ダイナソア・ゾーン」 日本文芸社 1981 ● 「銀河鉄道999_10」 少年画報社 1979
永井豪:「ドラグ恐竜剣」 光文社 1995 ● 「60億の恐竜たち」 石川県環境部 1995
「カムイ伝第二部9」 白土三平 小学館 1994 ● 「幻の小松左京/モリ・ミノル漫画全集 解説編」 モリ・ミノル 小学館 2002


[巨匠たちの恐竜] (画像5)
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引用元
「ロップくん2] 手塚治虫 講談社 1980 175p ● 「T・Pぼん2」 藤子・F・不二夫 潮出出版 1979 137p ● 「ディノニクス」 石ノ森章太郎 朝日ソノラマ 1993 26p ● 「ダイナソア・ゾーン」 松本零士 日本文芸社 1978 21p ● 「永井豪作品全書」 永井豪 新紀元社 2002 645p ● 「カムイ伝第二部9」 白土三平 小学館 1994 175p ● 「幻の小松左京/モリ・ミノル漫画全集 解説編」 モリ・ミノル 小学館 2002 54p


[その他の50~70年代の恐竜漫画本](画像6)
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引用元
「恐竜人ドンモス」 藤田茂 少年画報社 1955 ページ表記無し ● 「電人アロー」 一峰大二 光文社 1965 ページ表記無し ● 「怪獣少女」 松下哲也 ひばり書房 1972 85/190p ● 「恐龍攻撃」 高橋眞琴 榎本書店 不明 ● 「恐龍博士」 鳴門達也 日昭館 1958 ● 「恐龍娘」 しきはるみ 東京漫画出版社 不明


少年画報1955年10月号付録の「恐竜人ドンモス」(藤田茂)は南極に住む恐竜から進化した恐竜人間が宇宙に旅立つが、置き土産の巨大恐竜が日本を襲うという、短いながらも込み入った話。少年1965年2月号付録の「電人アロー」(一峰大二)は化石の恐竜が眼を覚ます話ですが、アローが子供たちに恐竜について解説するページがあります。
そして「怪獣少女」(1972年松下哲也)は裏山に住んでいる恐竜に育てられた少女ナデシ子ちゃんが兄(恐竜)の仇を討つために恐竜に変身…というツッコム隙もない問答無用のストーリーです。残りの3冊は「ほしい物リスト」に入っている本で未購入。「恐龍娘」は今年の8月、まんだらけから限定ソフビフィギュアが発売されましたが、すでにプレミア価格がついていてとても手が出ません。
http://sofvi.tokyo/160802_daimansai_made-in-nakano/

n-hihoukan_32-7.png 負けない位のお宝…かどうかは判りませんがネットで検索しても出てきませんので、案外レアな物かも。押し入れの中から探し出すのに苦労した「ロストワールド前世紀」のジオラマです。1999年ベネリック製。(画像7)

次回「20世紀恐竜漫画・後編」では、恐竜ルネサンス後のリアルなものや、小女コミック、ギャグ漫画など様々な恐竜漫画をとりあげます。

おまけです。つい先日10月2日まで科博で開催されていた「海のハンター展」で「限定」の2文字に抵抗できず大枚5千円をはたいて購入したカルカロドン・メガロドンの顎。軟骨部分がのっぺりしているのは化石として残っていないからという事で良いとして、1/12というスケール設定は、ドールハウスの標準スケールでフィギュアも沢山出回っているとあっては、これはもうこのようにディスプレイしろと言わんばかりではありませんか!(画像8)
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田村博氏

田村 博 Hiroshi Tamura

ジャズピアニスト。1953年1月27日生まれ。
恐竜倶楽部草創期からのメンバー。恐竜グッズ収集家として知られる。東京、横浜のライブハウスを中心に活動中。
1996年に、ベースの金井英人のグループの一員としてネパールでコンサートを行った。「開運なんでも鑑定団」などテレビ番組や雑誌に度々登場。「婦人公論」2002年7/22号で糸井重里氏連載の「井戸端会議」で国立科学博物館研究室長・富田幸光氏と対談。千葉県市川市のタウン誌「月刊いちかわ」に、恐竜に関するエッセイを半年間連載。1998年の夏には群馬県と福島県の博物館の特別展にコレクションを提供。2000年夏には福井県「恐竜エキスポふくい2000」にコレクションを提供、サックス奏者、本多俊之とのデュオで、恐竜をテーマにしたコンサートを行った。

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