新恐竜秘宝館

Vol.11 私の恐竜半生記2『1976年に大恐竜時代で温血説にふれ本格的に恐竜にはまる』の巻

還暦を迎えたというのに、先日きゃりーぱみゅぱみゅのMV「PONPONPON」で、きゃりーさんの頭にBULLYLAND製始祖鳥が付いているのを発見して不覚にも悦に入ってしまいました。(ちなみにこのビデオ、CGのプテラノドンも飛んでいます。)まあ一生こんな感じでやっていくのでしょう。ところで「きゃりーぱみゅぱみゅ」と言おうとして噛む度に、かの神話の「人間には発音不可能な名前を持つ旧支配者」を連想してしまうのは私だけでしょう…ね。そういえば、前回小畠先生が思いっきり省略した「パキケファロサウルス」も言い難いですね。

さて、1976年というと私はまだ23歳、新進ジャズピアニストとして新宿や六本木辺りのジャズクラブを中心に演奏していました。慢性収集症候群(常に何かを集めていないと死んでしまうサメの様な体質)の私としては、その頃は主にジャズのLPレコードを集めるというまっとうな事をしていましたが(*当時千枚以上のレコードを収めた棚が、今では恐竜模型に占拠されている様を秘宝館Vol.9でご覧あれ。)、前回紹介した「恐竜博物館」等の本は読んでいて、恐竜との絆は保たれていました。

4月に「大恐竜時代」(アドリアン・L・デズモンド著 二見書房)さえ世に出なければ、今頃は普通に恐竜好きなピアニストでジャズ道の方を極めていたかも知れません。この本は私にとって正に「人生を変えた1冊」になったのです。

内容はと言うと、マーストリヒトのモササウルス発見から始まる恐竜発見史、初期の恐竜研究の紹介と、まずは定石通り。4分の1程でオストローム教授らが登場して温血説を展開、ティラノサウルスの生態などにも話は及び、保守冷血派の大物悪役として、W.E.スウィントン(前回紹介した本「恐竜・その発生と絶滅」の著者)のティラノ愚鈍説、ヒプシロフォドン樹上説なども引き合いに出し話が盛り上がったところで、満を持して温血派の切り札、デイノニクスの登場です。ロバート・バッカーが描いた有名なイラスト(写真1)に、私は見事にやられてしまいました。
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それまで尾を上げて走る恐竜の復元画が無かったわけではありません。例えばティラノサウルスの背景で走るダチョウ恐竜類(ブリアン画)や崖に向かって(?)疾走するイグアノドン(ベルニサールで発見されたイグアノドンの大量の化石は集団で崖から落ちて死んだとされている)、お約束・始祖鳥を捕まえようとするオルニトレステスなど。(写真2)
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しかしこの初見参のデイノニクスの姿は全くの別物でした。それまでの恐竜画の、中生代の暗くどんよりとした空気のなかでうごめく怪物といったイメージを一気に払拭、月並みな言い方ですが、躍動感とか生物感に溢れ、輝ける恐竜新時代を感じさせるものでした。(もっとも歳を重ねた今、暗黒の中生代もいいなあと思いますが)
温血説に関しても、私は、保守=悪、革新こそ正義といった若者らしい青臭い価値観から無条件で支持。以降、冷血派の学者には憤りを感じるようになりこれでは温血派を通り越して熱血派か!?ともあれ、恐竜の新説の行く末を見届けることにしたのです。

話を本に戻すと、後半も、現在は否定されている首を直立させた竜脚類や、逆に定説となった鳥類=恐竜説、カザフスタンの毛の生えた悪魔「ソルデス」発見で立証されたとする翼竜温血説など刺激がいっぱい。最後の章はやはり「絶滅の謎」ですが、隕石衝突説の登場はまだ数年先です。

実はこの本、4回も出版されています。(写真3)
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「大恐竜時代」76年4月
「恐竜棲息の謎」77年8月
「恐竜絶滅の謎」87年10月
「恐竜絶滅の謎」89年7月

まるで「改装・改題の謎」です。邦題は原題の「THE HOT-BLOODED DINOSAURS」とは何の関連もなし。表紙イラストも、先の2冊はデイノニクスに似た風貌ですが指がティラノだし、後の2冊は内容に喧嘩を売っているとしか思えない。で、洋書はどうかなと思って探したら…こんな有様でした。(写真4)
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右のなど完全に喧嘩売ってますね。

80年代の再版時も内容は改訂されず、出版された時点で既に時代遅れになっていた(例えば隕石説が無いなど)のは残念です。

次は「大恐竜時代」に続いて、恐竜の新しい姿を紹介した本の中で特に印象に残ったものです。

「エデンの恐竜」カール・セーガン著 秀潤社(1978)(写真5)
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これは脳の進化をテーマにした本で恐竜は例としてとりあげられているだけですが、最も知能が高いとされるサウロルニトイデス(トロオドン)の眼は忘れられません。

「恐竜たち・古い竜についての新しい考え」J.Cマクローリン著 岩波書店(1982)(写真6)
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これでもかとばかりに新恐竜のイラストを満載。既に羽毛も生えています。トリケラに至っては新しさを求めるあまり大暴走!こんなになってしまいました。なんとこれを立体化したモデルがあります。秘宝館Vol.4で一度紹介しましたが改めて。(写真7)
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純国産にも記憶に残る本があります。特に新しい恐竜像を紹介しているわけではないのですが、いわゆるムック本の先がけで、いろいろな角度から恐竜を取り上げています。

「文芸春秋デラックス・恐竜2億年」(1978)(写真8)
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恐竜図鑑からニュー・ネッシー、フタバスズキリュウの思い出、恐竜本の紹介などなど。恐竜アラカルト・コーナーでデイノニクスが簡単に紹介されています。カラーグラビアの真っ白な羽毛をまとったプテラノドンは当時のトレンドで、私もはまって絵の右下にいる永大製のプラモデルを白く塗りました。

「アサヒグラフ・中国の恐竜」(1981)(写真9)
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タイトルの中国の恐竜特集を中心に、国内の博物館ガイドやなぜか怪獣映画史まで盛りだくさん。中でも私がそそられたのが屈斜路湖のレポートで、何年か後、写真の木彫りのクッシ―を探しに屈斜路湖に行く事になります。

1978年から79年にかけて大阪・東京で開催された「大恐竜展・ソ連科学アカデミーコレクション」にも触れようと思ったのですが、紙数が尽きてしまいました。この時、タルボサウルスやサウロロフスの傍らに、あの温血「ソルデス」も来日していた事だけ記しておきましょう。

最後に我家のデイノニクス・コレクションを披露しておしまいにしたいと思います。

デイノニクスとの出会いから10年近く、デイノニクスのフィギュアもキットも無い状態が続きました。やむなく香港製のゴムのオモチャからでっち上げたのがこれ。情けないです。(写真10)
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80年代中ごろ、待ちに待った初キットが海洋堂から発売されました。原型は荒木一成さん1/20スケール(写真11)
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ガレージキットメーカー「アルカード」製 1990年頃の物。1/20スケール(写真12)
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今は亡き「ユネスコ村大恐竜探検館」で売られていたココロ製のソフビ完成品。1/14と明記。(写真13)
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海洋堂、松村しのぶさん原型のコールドキャスト完成品。(写真14)
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ANTS社の1/5頭骨。やたらと良い出来。(写真15)
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諸々のオモチャ。真ん中の茶色のやつはフランスの「STARLUX」製で、それなりに貴重なものです。(写真16)
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その他、もちろんフェバリットからも各種発売されていますし、食玩でもかなりあると思います。JP以降、ドロマエオサウルス類代表の座をヴェロキラプトルに譲った感があるデイノニクスですが、まだまだ捨てたもんじゃありません。

追記
前回から紹介してきた70年代の恐竜本、実はお宝でも何でもなく、普通にヤフオクに出回っています。しかもちょっぴり切ない事に500円位で。みなさん是非購入して、温血説誕生当時の熱気みたいなものを味わって下さい。

田村博氏

田村 博 Hiroshi Tamura

ジャズピアニスト。1953年1月27日生まれ。
恐竜倶楽部草創期からのメンバー。恐竜グッズ収集家として知られる。東京、横浜のライブハウスを中心に活動中。
1996年に、ベースの金井英人のグループの一員としてネパールでコンサートを行った。「開運なんでも鑑定団」などテレビ番組や雑誌に度々登場。「婦人公論」2002年7/22号で糸井重里氏連載の「井戸端会議」で国立科学博物館研究室長・富田幸光氏と対談。千葉県市川市のタウン誌「月刊いちかわ」に、恐竜に関するエッセイを半年間連載。1998年の夏には群馬県と福島県の博物館の特別展にコレクションを提供。2000年夏には福井県「恐竜エキスポふくい2000」にコレクションを提供、サックス奏者、本多俊之とのデュオで、恐竜をテーマにしたコンサートを行った。

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