エッセイ

第59回 共食いではなかったコエロフィシス

共食いをしたことで有名なコエロフィシスですが、食べていたのは、初期のワニ類とわかったそうです。
これで恐竜が共食いしたという確実な化石証拠は、マジュンガトルスだけとなりました。恐竜の共食いは、従来考えられていたほど一般的ではなかったようです。


BBCでも再現

コエロフィシスは、体長は3メートルほどで、細長くきゃしゃな体です。腹部に幼体と考えられる化石が複数発見されているため、共食いをしたと考えられていました。
また、胎児が腹部に残っているとする卵胎生説もあります。
BBC製作の Walking with Dinosaurs でも幼体を共食いしている場面が出てきます。このシリーズで最初に登場する恐竜です。三畳紀後期の当時、たった1つの大陸・パンゲアでは、乾燥した日々が何日も続くと、獲物も少なくなり、共食いは当たり前だったと再現されています。


詳しい調査はなかった

1947年に、アメリカ自然史博物館のチームは、ニューメキシコ州にある三畳紀後期(約2億1000万年前)の地層で、多数のコエロフィシス(Coelophysis bauri)の化石を発見します。
コルバートは、その化石について詳しい調査もせずに幼体化石とし、1989年に共食い仮説を発表し、それが広く知られるようになったのです。
今回、アメリカ自然史博物館が所有する Coelophysis bauri のネオタイプ(新基準)標本(AMNH FR 7224)が詳しく調べられました。
上はその化石の一部を拡大したイラストです。ピンク色で示した化石は、肋骨の内部にあることから、他の化石が混ざったのではなくて胃の内容物であるとされています。
右大たい骨と左腸骨などで、その形状や骨断面の組織などを詳しく比較した結果、それらは、コエロフィシスの幼体の化石ではなくて、ヘスペロスクス(Hesperosuchus)のような初期のワニ類(クロコダイル形類、crocodylomorph)の化石とわかったそうです。


クロコダイル・ハンター

この頃の原始的なワニ類は、長い手足を持ち、すたすたと走りまわることができたのです。下は、三畳紀後期の原始的なワニ類、Effigia okeeffeae(エフィジア・オキーファエ)です。体長は2メートルほどで、直立2足歩行でした。詳しくは、恐竜のようで恐竜でないワニ(第42回最新恐竜ニュース)で紹介しています。
現生のワニのように水辺で暮らしたのではなく完全な陸上生活に適応していました。
エサの乏しい乾燥した大地で、これらのワニ類は、栄養の豊富な恐竜の卵を狙っていたのでしよう。卵どころか幼体も襲ったかもしれません。それをコエロフイシスは返り討ちにしたわけですね。



恐竜の共食いの証拠

恐竜が共食いをしたという報告はいくつかあります。カナダ・アルバータ州で発見された T.rex の骨にティラノサウルス類の噛み跡が残っていたことから、共食いしたとされています。しかし、同じ時期にダスプレトサウルスとゴルゴサウルスという別のティラノサウルス類もいたことから、決定的な証拠とはならな「のです。唯一の決定的な証拠はマジュンガトルスの骨に残る噛み跡が報告されています。
今回の結果について厳密に言えば、今まで共食いとされた証拠がなくなったというだけで、共食いをしていなかったというわけではありません。しかし、よく調べてみると、従来考えられていたほどに、恐竜の共食いは一般的ではなかったようです。化石として残りにくいこともあるのでしょうけど。


参考 Prey choice and cannibalistic behaviour in the theropod Coelophysis
   Sterling J. Nesbitt et al.
   Biol. Lett. Published online, 2006

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