エッセイ

第57回 恐竜の体温の話

恐竜は温血か冷血か、それともその中間のような特殊なシステムだったのか・・・。ひところよく話題になりました。今回は、その恐竜の体温についての話です。


そもそも温度とは?

体温を話題にしますが、そもそも温度とは何でしょうか? 右図のような昔からある温度計では、長さで気温を示します。
では、温度とは長さでしょうか。違いますね。温度とは熱力学的なパラメーターで、人間が作り上げた指数です。長さや質量と違い、分子1個に温度はありません。
要するに、重要なのは体温(温度)ではなくて、その環境で行動的だったかどうかということなのですね。


言葉の意味

さて、動物の体温を表す言葉について、簡単に整理してみましょう。どういう言葉で示したほうがより科学的に正確なのでしょうか。まず、温血・冷血です。

 温血動物:体温が高い動物
 冷血動物:体温が低い動物

しかし、温血と冷血の境は何度からか不明です。また、気温の高いところにいるトカゲの体温は、冬眠中の哺乳類よりも高い場合があります。ですから、温血・冷血で区別するのは正確ではありません。次に、恒温・変温です。

 恒温動物:周囲の温度変化によらず、体温をほぼ一定に保つ動物
 変温動物:周囲の温度変化に伴って体温が変動する動物。

この場合でも、恒温動物でも冬眠するクマのように、体温を下げる(変化させる)場合もありますし、爬虫類のトカゲでも暖かい気温では体温はほぼ一定です。
要するに、温血・冷血、恒温・変温という言葉は、ある特定の生物グループの特徴を現すには不正確なわけです。
そこで、自分の体内で熱を発生させることが出来るかどうかで区別すると、すっきりします。哺乳類と鳥類は内温性です。

 内温動物:体温の調節のため、代謝によって生じる熱を利用できる動物
 外温動物:体温の調節のため、日光などのような外部熱源を利用する動物


慣性恒温性

最近、フロリダ大の研究者が、恐竜が慣性恒温性だったという仮説を提唱しています。
慣性恒温性というのは、小さなコップのお湯は冷めやすいが、大きな浴槽のお湯が冷めにくいように、体積の大きい(体重の重い)恐竜の体温は冷えにくい、というのです。体温を一定に保つシステムがあるわけではありません。
研究では、恐竜の体温を、最も成長している時の成長速度と、その時点での体重から計算するモデル式を用いて計算しています。

Tb = 10 x ln(G x M -3/4 / g0)

 Tb:成長速度が最大の時の体温(℃)
 G :最大成長速度
 M : 成長速度が最大の時の体重(Kg)
 g0: 定数

最大成長速度は、次の8種の恐竜化石から求めています。竜盤類(獣脚類5種、竜脚類2種)がほとんどで、鳥盤類はプシッタコサウルスだけです。名前の後ろには、計算に用いた成長が最大速度になる時の体重を示しています。

  • Syntarsus rhodesiensis (シンタルスス、11Kg)
  • Psittacosaurus mongoliensis (プシッタコサウルス、12Kg)
  • Massospondylus carinatus (マッソスポンデュルス、140Kg)
  • Albertosaurus sarcophagus (アルバートサウルス、614Kg)
  • Gorgosaurus libratus (ゴルゴサウルス、622Kg)
  • Daspletosaurus torosus (ダスプレトサウルス、869Kg)
  • Tyrannosaurus rex (T.rex、2780Kg)
  • Apatosaurus excelsus (アパトサウルス、12979Kg)

体重と体温の関係

その結果を右図に示しています。横軸は体重(Kg)を対数目盛りで示し、縦軸は平均体温(℃)を示しています。
赤い丸は恐竜で、8種のうち7種は体重の対数に比例して増えています。シンタルススについては異常値としてその後の解析から除外されています。図の白丸です。
青い丸で示したように、現生のクロコダイルにもよくあてはまっています。
体重12kgの小型恐竜の体温は25℃程度で当時の環境とほぼ等しく、体重13トンの大型恐竜では体温が41℃と計算されています。


大型ほど高い体温

データ数が少ないのが気になりますが、曲線は、体重1000Kgあたりから勾配が急になっています。
体温が奪われるのは体表面積が関係します。体表面積は体長の2乗に比例し、体重は体長の3乗に比例するため、大きいほど体重あたりの体表面積は小さくなり、体温維持に有利になります。大型恐竜ほど、比較的高い体温となるわけです。
これらの結果は、恐竜が慣性恒温性だったとする初めての直接証拠としています。
また、体重が5.5tにもなるサウロポセイドンのような大型竜脚類の体温は48℃になると推定され、生物の限界体温(45℃)を超えるので、恐竜の体重は体温により制限されていたのではないかとも考えられています。
一方、哺乳類のような内温動物の場合、体積と表面積の関係からすると、大型化すると熱が逃げにくくなります。そこで、細胞あたりの熱発生量を減らすことで対応しています。体が大きく進化するに従い、代謝率をうまく調節しているのです。
恐竜の場合も、上の理論式どおりではなくて、大型化すると特殊なシステムがあったかもしれません。たとえば、体表面積を増やすために、サウロポセイドンの首の下に大きなヒレがあったりすると面白いですね。


参考:Dinosaur Fossils Predict Body Temperatures, James F. Gillooly et al.,PLoS Biology 4(8), 2006

バックナンバー